GIUSEPPE VERDI

NABUCCO (NABUCODONOSOR)

第3幕 第2場より Va, pensiero, sull'ali dorate”「行け、我が想いよ。金色の翼に乗って。」

 

Va, pensiero, sull'ali dorate 行け、我が想いよ、金色の翼に乗って
Va, ti posa sui clivi, sui colli,
 行け、斜面に、丘に憩いつつ
Ove olezzano tepide e molli
 そこでは薫っている。暖かく柔かい
L'aure dolci del suolo natal!
 故国の甘いそよ風が!

 

Del Giordano le rive saluta,  ヨルダンの河岸に挨拶を、
Di Sïonne le torri atterrate...
 そして破壊されたシオンの塔にも
Oh, mia patria sì bella e perduta!
 おお、あんなにも美しく、そして失われた我が故郷!
Oh, membranza sì cara e fatal!
  おお、あんなにも懐かしく、そして酷い思い出!

 

Arpa d'or dei fatidici vati,  運命を予言する預言者の金色の竪琴よ、
Perché muta dal salice pendi?
  何故黙っている、柳の木に掛けられたまま?
Le memorie nel petto raccendi,
  胸の中の思い出に再び火を点けてくれ
Ci favella del tempo che fu!
  過ぎ去った時を語ってくれ!

 

O simile di Solima ai fati   あるいはエルサレムの運命と同じ
Traggi un suono di crudo lamento,
  辛い悲嘆の響きをもった悲劇を語れ
O t'ispiri il Signore un concento
 あるいは主によって美しい響きが惹き起こされ
Che ne infonda al patire virtù!
 それが苦痛に耐える勇気を我々に呼び覚ますように!

 

イタリア第2の国家ともいわれるこの曲 Va pensiero”。現在、クラシックにおける演奏以外でもPopsなど様々なジャンルでアレンジされ、演奏されています。きっとあなたもこのメロディーをどこかで聴いたことがあるでしょう。原曲はある物語をベースに書かれたオペラ「ナブッコ」。4幕から構成されるこのオペラの、その第3幕・2において演奏されます。

それではこれから、旧約聖書にも載っているその物語についてお話しましょう。

 

 

史実では紀元前597586年と2回に渡り、新バビロニア王“ネブカドネザル2(注1)はユダ王国というイスラエル人の国に2度攻め入りました。そして多く人々を捕虜として連れ帰ります。これが有名な「バビロン虜囚」です。この事によりユダ王国は滅亡してしまいます(ちなみにこの頃からユダヤ人という名が使われだします)。彼らは後に、紀元前537年に新バビロニアがペルシアに倒された時に、ようやく故国へと帰還することが出来ました。そしてそう、この史実をベースに旧約聖書、そしてこのナブッコの物語があるのです。ではその物語はというと…

 

 

エルサレムに侵攻するバビロニア王ナブッコとその長女アビガイッレ。しかしナブッコの次女フェネーナは人質となっていたのである。追いつめられた大祭司ザッカーリアによって剣を突きつけられたフェネーナ。そして彼女と相思相愛の仲であったエルサレム王の甥イズマエーレは、同じく彼に想いを寄せるアビガイッレの求愛を、“我が愛を受け入れれば民を助ける”という提案を拒み、また自らの民への裏切りにもかかわらずフェネーナを救うのである。ついに戦に勝ったナブッコ。勝利と共に多くのヘブライ人(ユダヤ人)を虜囚としてバビロニアへと連れ帰るのであった。<第1幕>

 

帰還したアビガイッレは、ある文書から自分の出生が奴隷の子である事、そしてナブッコが王位を正妻の子であるフェネーナに譲ろうとしている事を知ってしまう。怒りと嫉妬、野心に燃え上がるアビガイッレ。そしてそんな彼女をそそのかすバビロニアの神官達。一方、ユダヤ教に改宗して愛するイズマエーレと共に生きることを選ぶフェネーナ。ところが勝利に思い上がっていたナブッコは娘の改宗を知り、激怒する。「もはやユダヤを征服した私こそが、神なのだ!」と。ところがそう叫んだとたん、ナブッコの頭上に雷が落ち、彼は気を失ってしまう。ここぞとばかりに隙をつくアビガイッレ。とうとう王座を手に入れる事に成功するのであった。<第2幕>

 

錯乱状態になってしまっていたナブッコ。そんな彼にアビガイッレはヘブライ人達の処刑を要求、署名をさせてしまう。そしてその中にはフェネーナの処刑も含まれていたのであった。それを知ったナブッコはアビガイッレに慈悲を請う。しかし彼女は頑として聞き入れない。その頃、ヘブライ人達はユーフラテスの河畔で祖国への想いを歌うのであった。【そう、それがこれから演奏される“我が想いよ、黄金の翼に乗ってゆけ”なのです。】<第3幕>

 

監禁されていたナブッコであったが、ついには正気に戻る。彼はエホバの神に許しを請い、フェネーナとヘブライ人、そして王位を奪還するために立ち上がる。処刑の場へたどり着いたナブッコと兵士達。彼は周りに立つバビロンの神像の破壊を命ずる。すると像達はひとりでに崩壊してしまう。奇跡を目の当たりに見たナブッコはエホバの神を称え、ヘブライ人の釈放と帰還を許す。そしてついに諦めるアビガイッレ。彼女は許しを乞いつつ、自死を選ぶのであった。ザッカリーアは勝利したナブッコを、ヘブライ人達は神を讃えながら、物語は終わる。<第4幕>

 

 

 

 “ナブッコ”の初演は184239日に行われ、ヴェルディの最初の大成功となった曲です(注2)。また当時のイタリアはハプスブルグ家の支配下。独立を願うイタリア国民の心情に響いたこの歌は、イタリア統一運動と共に好んで歌われたという逸話が残っています。実際、その後も第2次世界大戦後の復興時など、様々な場面で歌われました。そして現在、イタリアでは第2の国歌ともいえる大切な歌曲なのです。

 

“苦難を乗り越える勇気を呼び覚ます”

これもまた一つの“復活”といえるでしょう。

 

 

Vn 岸田亮

 

 

 

(注1)

この人が劇中のナブッコです。ネブカドネザル2世はあの有名な“バビロンの塔(バベルの塔)”の再建、そして古代ギリシアで世界7不思議とされた“空中庭園”を造った人物としても有名です。

王妃アミティスのために造られた空中庭園は、あまりの大きさ故に遠くから見ると空中にあるように見えた為、そう呼ばれました。そこは年中植物が生い茂る、素晴らしい庭園だったそうです。またそのために必要であった水路・水揚げ方法の謎は、現代でも未だに解明されていません。

バビロンの塔は約900年後にアレキサンダー大王が再建しようとした際、“崩壊していた塔のレンガを取り除くだけで、1万人の労働者を使って2ヵ月もかかった”と伝えられているほどの巨大な神殿(ジッグラド)でした。後々の調査により、実際には縦横高さ共に90mの段々状、8階建ての階段状建造物であったと思われています。ちなみにバビロン(バブ・イル)とは“神の門”を意味します。

旧約聖書にもこの塔についての記述は見られます。またブリューゲルの描いた有名な絵がありますね。

 

 

 

(注2

ヴェルディはこの曲を書く前に妻と二人の子供を亡くしています。そしてこの時アビガイッレを歌ったソプラノ歌手ジュゼッピーナ。彼女はヴェルディの良き理解者であり、17年後に二人は正式に結婚しました。